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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)400号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人市原庄八の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載のとおりである。

論旨第一点について。

原判決は、被告人が正犯たる川原由太郎において判示被害者両名に傷害を加えるに至るかも知れないと認識しながら判示匕首を貸与したところ、右川原が殺人の意思を以って該匕首により被害者両名を刺殺した事実、即ち被告人松林に対する関係においては、本件犯罪事実は犯意と現に発生した事実とが一致しない場合であることを明かにしたものであって、その間何ら所論の如き違法はない。

同第二点について。

本件は、前段に説明した如く、被告人の認識したところ即ち犯意と現に発生した事実とが一致しない場合であるから、刑法第三八条第二項の適用上、軽き犯意についてその既遂を論ずべきであって、重き事実の既遂を以って論ずることはできない。原判決は右の法理に従って法律の適用を示したもので、所論幇助の点は客観的には殺人幇助として刑法第一九九条第六二条第一項に該当するが、軽き犯意に基き傷害致死幇助として同法第二〇五条第六二条第一項を以って処断すべきものであることを説示したものであることは判文上極めて明かであって、その間何ら所論の如き曖昧な点はなく、原判決の法律の適用は正当であって、論旨は理由がない。

同第三点について。

刑訴施行法第二条の如き手続法規は判文中にその適用を明示する必要はない。従って論旨は理由がない。

よって、旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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